11月23日まで続いてゆくカウントダウン小話です。
まずは19日、秩鉄と、寄居駅からスタートです。
23日にはお嬢とどの駅まで行くのか、日ごと夜ごとのミステリーツアーをお楽しみ下さい!
[寄居駅担当:Yギリ]
【秩父鉄道の言うことはなんでも信じてしまう/寄居駅】
「いよいよ今度の日曜日だな……!」
「ああ、23日だ。お前は買い出し担当なんだからたのむぞ!」
「オレ! 二冊欲しい二冊! 読むようと保存用!」
「ばっかやろう! オレらが買い占めてどうする! お嬢のことを広く知っていただくチャンスだと言うのに!」
「ああ〜、そうなんだよなあ、でも二冊……」
「おいおい、お前ら修行がたんねえぜ? 良いか、読むのは1回だけだ! その1回で全てを脳みそに刻み込め! 後は厳重に保管! 次に読むのは……死ぬ前だけさ……」
「せんっぱいいいい! 自分、目が覚めたであります!」
「ばっかやろう……かっこつけやがって!」
「その通りだ、全くその通りだ!」
「何がその通りなの?」
『おわあああああああああ!』
駅員室で固まって感動を共有しあっていた駅員達は、唐突に入り込んできた声に飛び上がって驚いた。
「おおおお嬢、いつからそこに!」
「今さっきだけど、ねえ、なんの話してたの?」
彼らがすべからく敬愛し、書き初めで「お嬢命」とか書いてしまうくらいには傾倒している自社路線、お嬢こと東上はことん、と小首を傾げて再び駅員達に尋ねた。
普段ならばそのような仕草を目にしようものなら心の中で感涙に噎びつつ、例え国家機密であろうと吐いてしまいそうな彼らも、今回ばかりは言う訳にいかないと、どうにか耐えきるとあからさまな様子で目を反らした。直視したら、黙秘しきる自信など無かったので。
「いえいえ、なんでもないですよ? 最近は日が落ちるのが早いなあとか」
「そうそう、朝晩冷えるよなあとか」
「あ、先輩! そろそろ急行来ます!」
「お、そうか、それじゃお嬢また後で!」
ごまかし方がベッタベタだとか思ってはいけない。彼らはこれでいっぱいいっぱいなのだ。
そうやってばたばたと風のように駅員達に去られてしまった東上はきょとん、とした後になんとなく膨れた。
「んで? 家出中っつー訳か」
そう言って豪快に笑い飛ばしたのは秩父鉄道だ。寄居駅の共用ホームの椅子で体育座りをしながら盛大にむくれていた東上を見つけ、何があったのかと問いただしてそこまで聞き出してからのことだ。
「だって! その駅の子だけじゃないんだよ!? 他の駅もどこもかしこもみんなそんなんだったんだもん! わたしだけ仲間はずれなんだもん! もうみんなわたしのことなんかいらないんだもん!」
もうわたし秩鉄のとこの子になる! と、心にも無いことを言う東上の口調は普段とは違って甚だしく幼い。
東上よりも先にここを走っていたいわば先輩格の秩鉄には、寄居で繋がって以来色々と頼りきりで、まるで兄のように慕っているので二人きりだとついつい昔のような口調になってしまう。
「おいおい、そんなん駅員の奴らが聞いたら泣いちまうぞ? まあ、寄居にゃほとんどうちのもんしかいねえから良いけんどもよ」
寄居駅は秩父鉄道の管轄で、東上の職員は小川町から普通列車を運転してきた運転手くらいのものだ。それでも東上はついつい辺りを見回した。その様子に秩鉄は再び笑った。そんな風に気にするくらいならば、言わなければ良いのに、と思いはしても、拗ねられるのも自分の前でくらいだと知っているからただ可愛らしいだけだ。
結局のところ、東上にとっての秩鉄が兄であるのと同じくらいに秩鉄にとっての東上は可愛い妹なのだ。
「でも……本当に、なんなんだろう。なんかね、23日に何かが発売になって、みんなそれが楽しみみたい、っていうのは、予想できるんだけど……なんだろう、秩鉄はなにか心当たりある?」
今度は一転して不安そうにしょんぼりと聞いてくるからついその丸い頭を撫でた。東上は逃げない。これもまた秩鉄の特権だ。
「23日なあ……」
言われてみれば、一つだけ心当たりが無いでも無いのだ。ついこの間若手の職員から「アニキの分も買ってきますよ!」と、意気揚々と宣言(それにしたって自社路線を兄貴と呼ぶのはどうしたものか。東上職員に変な風に感化されているとしか思えない)されたことが「それ」だとしたのならば、どうにも自分の口から告げることは憚られる。
なにせ、「それ」はもう今更止めようの無いことでもあるし、「今から眠れませんよ!」と東上の運転手が言うくらい(切実に寝ろ、と言っておいた)楽しみにしていることなのだ。
東上の心の平和と駅員達の楽しみを考え、秩鉄は一つ頷くと、お得意のにっかりとした笑顔を浮かべた。
「ワリ、俺には分かんねえな!」
曇無き笑顔と明朗とした声。それでなくとも秩鉄の言うことならばなんでも信じてしまう東上ではひとたまりも無かった。
「そっかあ、そうだよね」
「ああ、でも八高なら知ってかもしんねえぞ? あいつ、小川町でお前んとこの職員と話しすっだろ?」
「う〜ん、そうだね、そうかも。じゃあ小川町に行ってみるね!」
晴れ晴れと笑う東上の頭を撫でる秩鉄のあまりにも鮮やかな東上扱い。
さすがはうちの兄貴だぜ! とまたぞろ秩父鉄道職員の尊敬を一身に集めつつ、秩鉄は関門を難なくくぐり抜けたのであった。