有楽町のファインプレーにより一旦は納得した東上ですが、訪れた池袋駅で再び疑念を覚えます。
そこにやってきたのは・・・・・・
東上は、池袋駅でいったい何を知ることになるのでしょうか?
[池袋駅担当:Yギリ]
【埼京には有無を言わさず巻き込まれてしまう:池袋駅】
有楽町の言うことはなんだかひどくもっともらしく思えた。
そういえば、前にも内緒でクリスマス会を開いてくれたりとかもしたのだ、そういうこともあるのかもしれない。
そう思うと、なあんだ、そうか、と東上はその駅員達の優しさが気恥ずかしくも嬉しくて、弛んでしまう頬を両手で押さえた。
「べつに、内緒にしなくったっていいのに」
呟いてからまた口角は勝手に上がって、もやもやとしていた心の内も晴れていくのが分かった。
そうとなればまた仕事に戻らなければ、と思ったけれど、せっかくここまで来たのだ、池袋駅の南改札口に毎年置いているクリスマスツリーを出して掃除しておこう、と東上はそのまま池袋駅に向かうことにした。
和光市から池袋へは急行に乗って十分程度だ、あっさりと着いてしまう。微かに鼻歌を歌いながら南改札口に向かうと、下り電車を待つ人々の中に見知った顔を見つけて東上はそちらに近づいた。
「いやあ、いいよ絶対!ぼくは明日買いに行くよ!蓮田君が持ってた写真が表紙になってるらしいんだけど、それがもう、さいっこう!なんだよ!」
「おー、蓮田な、あいつぜってえムッツリだし。つかそれどんなどんな?」
「ふふふ……なんと、上目遣い!」
「おおおおお!!」
「マジで!」
「コスモスを両手に持って〜」
「キター!」
「コスモース!」
「そして極めつき!正面はにかみ笑顔―!」
「ありがとーう!」
「神様ありがとーう!」
あーい、あーい、あーーーーい!と、ガッツポーズで掲げた右腕をぶつけ合ういかにも今風の男子校生二人と、まるで反対のこちらはいかにもなマニア風男子高生の異色の組み合わせに、周囲の人々は不思議そうな視線を送ったが、本人達はまるで気にしていなかった。今はそんな些細な事にかかずらっている暇など有りはしないのだ。
「えー、イベントとかゆーので売るんだろそれ。本屋じゃ買えねえの?」
「ちっちっち、バカ言うなよ豊田。オレ姉ちゃんに連れられて荷物持ちでついてったことあるけど、なんかそゆんじゃねんだって!なんかぺらくって高い本でさあ。夏と冬?の二回しか売らねんだって。だから並んで入場するのよ!とかって姉ちゃん言ってた。もー、真夏であっちーのにみんなすっげー並んでんだぜ、オレもう行きたくねえ。あれマジで。こばっち明日行くんだべ、オレのも買ってきてよ」
「松元君の言ってるの、それはコミケ。明日のはまた別。規模も人も比べるような物じゃないよ、ふっつーに買えるよ。でも買ってきても良いよ」
「マジでー、並ばないんなら行くかなー。だって学校で渡してもらうなら、オレ24日マジ悶えるもん」
「あー、だな!寝れない!そんな東上さんのお宝ブック……」
「……やっぱり、違うんだ。有楽町まで騙したんだ!ひどい!ねえ、明日何があるの!?」
『と、東上さん!』
基本的に男子高校生の声は無駄に大きい。それがしかも普段から騒がしい男子校の生徒ともなればさらに大きくなるわけで、しかも彼らは今興奮しながら話していたのだからその様子は推して知るべしである。
こんなところで会うなんて奇遇だなあ、そういえばこないだの文化祭の御礼言ってないや、と近づいた東上の耳に先ほどの会話はずいぶんと長いこと隠されることなく飛び込んできたわけである。
23日に発売されて、自分に関係があって、それはどこかに行かないと買えないらしい。
心当たりのあるキーワードが次々に飛び込んでくると、もうそうとしか考えられなかった。
東上は三人に詰め寄った。
「ねえ、何があるの?何が売られるの?どこで売ってるの?」
「うええ、ええっと、お〜……」
「あの〜……」
「ね、ねえ……?」
憧れの人(鉄道だけど)に必死な様子で詰め寄られて、思春期まっただ中の少年達は色んな意味で大変だった。なんだろう、この天国のような地獄気分……!と、喜びを感じつつも追い込まれる彼らを救ったのは、相変わらず状況を読まないJRの巨乳担当だった。
「なあんだあ、東上も行きたかったの?んじゃあ明日一緒に行こうよ!」
「さ、埼京!」
唐突に現れたかと思うとなんの前触れもなく東上に抱きついて、わーい、明日は東上とデートだ〜、と脳天気にはしゃいでいる埼京に、助かった、と思いながらも何を言い出すんだこの人は!と少年達は慌てた。
だがしかし。
「……」「……ごふっ」「……うん」
埼京がぴょんぴょんと跳ねるたびに揺れる胸を直視出来ずに、視線をずらして三人は何となく無言で咳払いなどをした。実に、目のやり場に困る胸だ。
「ま、待ってよ埼京、明日、どこに行くって?」
「え、だから東上も行くんでしょ?じゃあ待ち合わせは中央1口改札だっけ?うちの改札と真向かいに作ったとこ。あそこなら迷わないでしょ?ちょうど良いんだよ、池袋からうちの湘南新宿ラインのりんかい線直通使ったら乗り換えもないし、有楽町とかで新木場で乗り換えるより全然早いんだから!きゃあ、たのしみー!ねえねえ、お買い物終わったらビーナスフォート行こうよー、東上行ったことないでしょー?」
「え、え、べ、米ナス?ほぉと?なに?」
「ああんもう!東上ったらかわいいなあもう!いいのいいの、行けばわかるからー!」
わあい、と無邪気に捲し立てる埼京の様子に、東上は何となく押し切られた。こうなっては埼京が言うことを聞いてくれるはずもないし、だいたい、明日になれば埼京の言うとおり謎が解けるのだ。まあ良いか、埼京がこんな風に喜んでいると言うことは、別に嫌なモノが売られる訳では無いのだろう。今はそれだけ分かれば十分だ、と東上は思い直し、「あ、でも夕飯には帰るよ、八高がまぐろ買ってきてくれるから」と言いながら埼京に引きずられて行った。
残された少年達は、その姿が見えなくなると一斉に詰めていた息を吐き出した。
「いやあ、危なかったな……」
「ああ、埼京タン来てくれて助かったよね」
「あー、しっかし……なあ?」
「ねえ」
「おおよ」
三人は遠い目で先ほどの状況を反すうした。
華奢で和風で恥ずかしがりの大人しい東上と、巨乳で今風で大胆な埼京。様子は正反対だけれどどちらも可愛らしいことに間違いは無い。それがぎゅうぎゅうと狭い場所できゃっきゃウフフとじゃれ合っているのだ。何というお宝画像か。
「あ!ダメだ残像消える!」
「目だ、目を閉じて網膜に焼き付けるんだ!」
「うおお本気出せオレの心のアルバムよー!」
今度は自分で目隠しをしながら騒ぐ三人に、周囲の目は生ぬるかった。
THE・青春は誰もが一度は通る道なのだ、まっただ中の若人に対する周りの人間はそう思いなんとなくうなずきを交わしていた。
タイプがまるで違うのに二人の友情は確かなモノだ。いつだってなんとなく埼京を許してしまうくせの付いている東上は、今回も流された。
こんな風に毎回埼京には有無を言わさず巻き込まれてしまうのだ。まあ、それも案外楽しいことなのだけれど。
とにも各にも、当日東上が埼京によってそこに連れられていってしまうことは、今ここにしっかりと決まったのであった……